藤巻さんの日本とドイツの比較は「デタラメ」!

ハイパーインフレの真の原因を歴史と経済学から論破する

「バブル崩壊を遥かに超える悲劇が始まろうとしている」「ドイツのハイパーインフレの経緯と今の日本の状態そっくり」「日本株はどうなるか?」他 | 藤巻健史 オフィシャルウェブサイト
日本維新の会 参議院議員・経済評論家 藤巻健史オフィシャルウェブサイト

なぜ「ドイツ=日本」論は間違っているのか?

近年、日本の巨額な財政赤字を見るにつけ、「このままでは第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレと同じ道を辿る」という言説を耳にします。しかし、これは歴史的特殊性やマクロ経済の構造を無視したデタラメな比較論であり、不安を煽るためのミスリードに過ぎません。

本稿では、ドイツのハイパーインフレの真の原因を深く掘り下げ、現在の日本経済との決定的な相違点を明確にすることで、この誤った言説の偏見を論破します。


ドイツ・ハイパーインフレの主因は「賠償金と強制的な紙幣発行」

ヴァイマル共和国で1921年〜1923年にかけて発生したハイパーインフレは、単なる財政規律の緩みではなく、歴史上特異な要因が複合した結果です。

巨額な「対外賠償金」という強制力

ドイツのインフレをハイパーインフレにまで発展させた最大の要因は、ヴェルサイユ条約で課せられた**巨額な対外賠償金(1,320億金マルク)**です。

  • 通貨の信頼崩壊の源泉: 賠償金は、ドイツ通貨のマルクではなく、連合国が認める**外貨(金やドル)現物(石炭、鉄鋼など)**で支払う義務がありました。
  • 紙幣増刷の必然性: 外貨や物資を調達するため、ドイツ政府は中央銀行(ライヒスバンク)にマルクを無制限に印刷させました。この増刷の目的は、国内の景気対策ではなく、国際的な債務の履行という強制的な対外圧力でした。

ケインズの指摘の正当性

経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、著書『平和の経済的帰結』(1919年)で、この賠償金がドイツ経済にとって過酷であり、ヨーロッパの不安定化を招くと強く警告していました。彼の懸念通り、この過重な負担が通貨の信頼を根本から破壊し、ハイパーインフレの遠因となりました。

生産能力の壊滅とルール占領

さらに、戦争による生産能力の低下に加え、1923年1月のルール地方占領により、主要工業地帯からの生産が停止し、国内のモノやサービスの供給力が壊滅的になりました。供給力崩壊下での紙幣乱発が、インフレを制御不能な水準へと加速させたのです。


現在の日本経済との決定的な「構造的相違点」

ドイツの歴史的悲劇と現在の日本の状況を「そっくり」とする議論は、以下のマクロ経済の構造的基盤の異質性を完全に無視しています。

要素第一次世界大戦後のドイツ現在の日本
債務の性質対外的な巨額の賠償金(外貨・現物での支払義務)ほぼ自国通貨(円)建ての国債(対外債務ではない)
中央銀行の行動国際的な強制力の下で、通貨の信頼を犠牲にして紙幣を無制限に増刷デフレ脱却を目的とし、主権の範囲内で金融緩和を実施
供給能力戦争と占領により壊滅的な状態世界有数の高度な生産力を保持。供給力は旺盛。
通貨の信認完全に崩壊し、物々交換や外貨に移行世界三大通貨の一つとして国際的に信認され、安定

経済学から見た「デタラメ」論の核心

経済学では、ハイパーインフレは**「月間インフレ率が50%を超える状態」**と定義されます。この異常な状態は、単なる金融緩和では発生しません。

財政の支配の「形態」が異なる

ハイパーインフレの発生には、中央銀行が政府の財政ニーズに屈する**「財政の支配(Fiscal Dominance)」**が必要です。

  • ドイツ: **政治的な強制力(賠償金)が、中央銀行に「通貨の信頼を無視した紙幣増刷」**を強要しました。
  • 日本: デフレ脱却のための金融政策の一環として日銀が国債を購入しており、ドイツのような**「国際的な強制力の下での通貨崩壊を前提とした増刷」**は存在しません。

通貨の信認の「自己実現的崩壊」がない

ハイパーインフレは、人々が**「政府はもう紙幣発行を止められない」と確信し、誰もが通貨の保有を急いで避ける**(モノや外貨に替える)行動を取ることで加速します。これが**「自己実現的な通貨の信認の崩壊」**です。

現在の円は、国際的にも国内的にもその機能と信認が保たれており、多くの人々が「明日には円が紙くずになる」とパニックになって行動する状況にはありません。

偏見に基づく論理の飛躍

確かに、財政規律の維持は長期的に国家の経済的健全性のために重要です(ブキャナンらの公共選択論が指摘する点です)。しかし、この**長期的な「規律の重要性」の議論を、ドイツの短期的な「通貨崩壊の特殊メカニズム」**と結びつけ、「そっくり」だと主張するのは、論理の飛躍であり、歴史的特殊性を無視したデマに他なりません。

ドイツの悲劇は、戦争のツケと国際的な強制力が生んだものであり、現在の日本を不安な未来と重ね合わせる根拠にはなりえません。


【この記事の論拠の要点】

  1. ドイツの主因は対外賠償金生産能力の壊滅という特殊要因。
  2. 日本の債務は円建てで国内保有であり、対外的な強制力がない。
  3. ハイパーインフレは通貨信認の全面崩壊なくして起こりえない。

読者の皆様へ

経済言説の背景には、様々な思想やイデオロギー(例:ケインズ批判としての財政規律重視)が存在します。歴史的教訓を学ぶことは大切ですが、その特殊性を無視した比較には注意が必要です。

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